舞踊劇「オルフェウスの告白」台本
 

    ー構成・演出のためのノートー


      <第一景 オルフェウスの蘇生>


        舞台中央に数本の竹の群が浮かび上がる。
       
(古代を暗示、しかしモダン)
     
   その中に・・・

       ○ オルフェウスが磔になって死んでいる。


   1 祠の中のオルフェウス                     「NAOMI CHANT」

        何故か、右手の指は何かに触れようとしているかのように、
        
下手に伸ばしきっている(そこに光)

        (ミケランジェロの「最後の審判」の指の形を暗示)     

       ○ 空白の間 
            

         オルフェウスが蘇生してゆく・・・

   2 詩人・音楽家オルフェウスの誕生            「What's He Building」

         台詞(現代の喧騒でもある)が進むうちに 磔の形から、肉体が抜け出し
        彼は彷徨い出る。眠りから現代の舞台へ。

        そして、最初に行うことは、空中から言葉を取り出し
(泡を拾うかのように)
         物を書く様子のオルフェ。 花、石、木々・・・の言葉を拾う。

         その都度、竹薮が光瞬く(命の点滅)・・川や泉があるかもしれない。         

         彼は死者からの蘇生ではなく、死の母から生まれた若者のように清々しく、
         ナイーブでなければならない。

        (後半で、ディオニソスを誘惑するような妖艶さや悪魔性はここでは見せてはならない。)   

         やがて、空中に竪琴が浮かぶ。

         それに気付くと、彼は言葉を捨て、次に楽器を求める    


      < 第二景 物語の発端>

         光の音(SE)

         海の音(SE)
  

   3 海の詩人                             「 海の詩人」         

       ○ 空から光が無数に降ってくる。舞台は光の洪水になる。        

       (それはアポロの贈り物を受け、アポロンの対立者のディオニソスを拒否することを意味する)     

       ○ 空中の竪琴を象徴的に見せ、それをあたかも弾いているような 姿で 踊るオルフェウス。         

       ○ 曲調変りで(音楽ーギターのトレモロの所)あたりに暗闇が迫り・・          
         突然、リズムが始まると、竪琴が空中に昇っていってしまう。         

       ○ 誰かが奪ったのだろうか?天か、神か、それはオルフェウスには分からない。         

       ○ 気がつけば指に血(海幸彦の針がひっかかったように)・・・         

       ○ オルフェ、その指を舐める、(あの指差す形を見せて)大地に唾を吐く、         

       ○ それが彼に下された最初の罰であるかのように・・・

        
そして不吉な予感を感じるオルフェウスがいる   
           
       ○ 悲しげにその竪琴の後を追うオルフェウス  

         パーカッションのリズムに乗って登場するデュオニソス         

       ○ そこは暗闇が支配する。           

         月が照っているかもしれない。         

       ○ その手にはオルフェウスがなくした竪琴が握られている・・

         野蛮な、粗野の感じのする踊り。   

         曲調が変り、高い弦が入ってくるとオルフェウス 竪琴を探し求めるような踊り             

              (ストリングスがオルフェの踊りの音楽を現す事)
              (リズムがディオニソスの踊りの音楽を現す事)

      ○ 二人が顔を合わせることはない!         

       ○ しかしどこかオルフェウスはディオニソスを探し求めているようだ   
       
       ○ ディオニソスは最後に、高く竪琴をさし示す。それに気づかないオルフェウス            

       ○ 高いところで、象徴的に竪琴を見せるディオニソスのポーズがあり・・
        
       ○ 琴だけが浮かび上がり         

       ○ それに手を伸ばすオルフェウス                                                                                     
         (暗転)  


      <第三景 古代の昼と夜>


 
    舞台には何も無い
               

   4 暗闇の中でパーカッションの演奏が始まる(約6分)        「BODHRAN 」
 
            
         彼らは演奏しながら現れてもよい。そして定位置に座る。
         笛(マウスハープ)の音が出てくると・・・・        

       ○ 暗闇の中にあやしく(4分あたり)ディオニソス登場(夜明けの色)

         彼は大地に礼拝するのかも知れない。         
         続いて・・・・どこかに座って、地に口づけ、足や手を座ったまま奇妙に動かす
        
やがて・・・・        

       ○ 太陽が登ると・・・ディオニソス立ち上がり・・・

        

   5 ディオニソスの舞(昼)                       「acros」
 
       
         彼の出生が現される!   
      
         彼は女を従えさせる男である。勇壮である。
        
         女をひきつける魅了がある。まるで女たちを従わせ、空気中からニンフを呼びよせ
         るような踊りである。
        
光が彼の周りをクルクルついて回る。         

         葡萄を採集する能力。         

         しかし、狂気の中に冷徹さがある。彼は秘儀を司る教祖になるであろう。
         彼はエジプトから来たのかもしれない。              

         踊り終わって、ディオニソス退場

  

    6 オルフェウスの祈りの舞(夜)               「A COOL WIING」   

        夜のとばり、月が出る、オルフェウス登場        

        その出生を予言する踊り         

        彼は女に求められる男である         
        月や夜空の神々に敬虔な祈りを捧げる男である         
        彼もまた、教祖になるであろう。        

            満月         

            蓮のイメージ         

        月光に召され、オルフェウスの姿・・・・・光を抱いて・・・ 暗容                                                                                                                                                               


      < 第四景 神殿の前 祝祭の舞>    

        暗転の間に舞台は一変する。    
         
暗転の間に、二枚の紗幕(ラファエロ前派系)降りている。

    7 声                「The Call To Prayers」の冒頭部分 40秒        

         暗闇で声がする。        
         それは神殿での祝祭を告げる声である       

    

    8 バンド演奏(開幕を告げる音楽)             ー参考音楽「Montagge」

                               

     9 二人の登場 (紗幕の中の二人の踊り)                 「Darks」       

         紗幕の絵の中にオルフェウス・ディオニソス浮かび上がる。        
         恭しく礼をする。神々を言祝ぐ踊りが披露される。  
            

   10 二人の舞                             「Lianes」                           

         ディオニソス、 剣舞的、あるいは猟の様子かもしれない。
        オルフェウス、 波を漂う木の葉、魚のようかもしれない。 
                      

         二人の踊り(勇壮になってゆく)                   「Tramin」     

         二人の踊り(パーカーションが違う色合いを出す)          「Lianes」                                

         倍の長さがあっても良い・・・パーカッション盛り上がってゆき激しく響きなりやがて

         紗幕を面白く使い・・・
         二人は紗幕の中に入り・・・  


   
11 退場の音楽(紗幕の中の踊り)                 「Montagge」                 

         踊り終わり・・・       

         紗幕の中で二人が消える。            

        闇の中に紗幕の絵だけが浮かび・・・

  

   12 声                    「The Call To Prayers」の冒頭部分        

         祝祭を終了する声がする   

                                                                                                      暗転

 


      <第五景 夜・祝祭の後で〜決別> 
 
 

   13 間奏曲                           「プレリュード」           

   14 風の音 SE                    「夢の後で」の冒頭部分 50秒        

         照明ー月の前を走る雲・・・風・・・暴雨風の予感        

         誰もいなくなった神殿 祝祭の後の紗幕が、夜の中に無気味に揺れている。
         やがて遠くから聞こえてくる音楽
  
          

   15 闘争(踊り)                          「Sanctaus」                  

         曲中で、オルフェウス、脅えたように登場         

        誰かを、不安げに待っている様子・・・・雷鳴・・  

        オルフェウスは悩んだ。

  
         (物語風イメージ)

          自分が愛していた楽器(アポロンから授けられた竪琴)を盗んだのはもしかしてディ         
          オニソスなのではないかと疑いだしたのである。
 
          しかし、何故、ディオニソスがそれを盗む理由があろうか?その理由がオルフェウ         
          スにはなかなか理解できない。

          確かにディオニソスの最近の自分に対する態度はどこかよそよそしいとは思いつつも。   

          流れる雲間の月は青ざめていた。

          風は草原の草を打って、草は悲鳴をあげていた。

          オルフェウスは、村から離れたこの草原の丘にディオニソスを呼び出した。  

          その時、竪琴を月に捧げ、それを海に投げ棄てるディオニソスの黒い姿が
         一瞬浮かび上がって消えたようにオルフェウスには見えた。  

         「あ、あれは!」  

          しかし、次にオルフェウスが認めたのは、草原の向こうから悠々と丘を登ってくるデ         
          ィオニソスの姿であった。


          そこには竪琴はない。  

         「俺は来た。」ディオニソスはオルフェを見ると言った。  

         「こんな場所に俺を呼び出し、用事とは一体なんだ。」ディオニソスは猛々しく言い放った。

         「さっき、私はある幻想を見た・・・」言いよどんだオルフェの肩に手を置くとディオニソスが言った。  

         「さっき、お前が見たものだと?何をお前は見たというのだ。
          オルフェ、お前は最近疲れてはいないか。お前は繊細な心の持ち主だ。詩を愛し、
          音 楽を愛でる心、それは俺にも通じるものがあ る。
          そこでだ、お前と俺との相違は、幻 想ということだ。
          お前は幻想を見る芸術家だ。しかし俺は、俺は現実を作る芸術家だということだ。」  

         「なんという不敬を!神よ!許したまえ。」  

         「神よ・・・か。ふん、では神は一体、お前に何をくれたというのだ。」  
        
         「祈りを!」  

         「祈りだと?」  

         「祈りを捧げるための音楽を・・・その為にあの竪琴を・・・・」  

         「あれか!」ディオニソスがそう言い放つと、暗い草原の宙に海底に眠る竪琴が浮かび上がる。  

         「やはり、あなたが・・・あれを、あなたはどこへ捨てたのです!」  

         「見てのとおり海だ!天から授けられたものは海底に沈めてしまわなければならない」 

         「海底へですって。」  

         「そうだ、あのどす黒く渦巻く海底の渦潮の底に捨てたのだ!」  

         「お前は美しい、しかしそれは神への捧げものではならない。
         お前の肉や精神は人間に捧げなければならないものだ。そうしてお前を束縛するものを、
         俺はお前から奪い、お前を自由にしてやるのだ。そのためにあれを奪い、おれは捨てた」  

         「帰せ、あの竪琴を返せ!あなたの故郷はこの野山だ、野山に神がいるように海にも         
         それを司る神がいる。海の神たちはそれを許さないだろう。
         
ディオニソス、お願いだ、あなたはあなたの犯した罪を償うためにも、海の底へ潜り、
         その手で私のもとにあの竪琴を返してください。」  

         「お前が、俺の言うことを聞いてくれるのなら」  

         「あなたがいつも連れ歩く女達のように、私にはあの竪琴は必要なのだ。
         
あなたはいつもすべては自分が所有していると思っている。
          あなたには手に入らないものはないと思っている。」  

         「手に入らないもの・・・。ああ、たぶんそんなものはあるまい。」  

         「ディオニソス、頼む。」  

         「お前が、神にでなく、俺に平伏すというのなら、
          おれはあのアポロンの竪琴を取ってきてもいいだろう・・・ふん!」
 

         「やめてください、この私が神にではなく、
          あなたに平伏するために、神が下さったものを捨てろとあなたは言うのか」
  
          なおも言い寄るディオニソス。  

         「おお、そのためなら俺は、海に潜ろう!」  
         
         
ディオニソスは突然オルフェウスの頬を打つ。

          それから、笑いながら昂然と海底へと去ってゆくディオニソス。

         倒れ伏したオルフェウス・・・やがて

         「神よ、この不敬なるディオニソスを許したまえ。
          彼が平伏すことが出来ない魂というものがこの世にあるということを
          私は彼に示さねばならない時が来た。」  

         オルフェウスの胸に痛みが走る。
        
見れば指から血が・・・・
  
          しかし彼はそれを掃き捨てない。その手を差し伸べれば・・・
          この世は血に染まるだろう。
         
          それを舐めるオルフェウスの顔に何故か不思議な、神秘的な微笑が・・・・・  
        
そして・・・・彼もまた、深海へと降りてゆく・・・



       <第六景 海底への道>

   16 海底への道                     「Hymn Before Action」

         海底に降りてゆく・・・何かを秘めながら・・オルフェウス  
     
        自らの中に生まれてくるものを確かめるように・・・
       

         その間、舞台転換がされてゆく        

         照明が深海に変化してゆき・・・・       

         紗幕(最後部)が降りてくる        

         紗幕の絵(海底の宮殿の門)が浮かび上がってくる。        

         オルフェウス、その背後に消える。

         海底の中を歩いてくるディオニソスがいる。やがて・・・彼は見る。  


       <第七景 乙姫の舞 >

   17 オルフェウスの化身の舞(紗幕の中)             「The Cold Song」         

         水底の踊り(「幻想的踊り)紗幕の中で踊る。         

         紗幕の中にオルフェウスの化身(女装)が浮かび上がって来る 。

         三枚の紗幕が、一つの絵になる (ラファエロ前派を使用)       

         それはオルフェウスなのか海中の美女なのか・・・         

         後半で、ディオニソス、登場。女の踊りを見る。
         
踊り終わってオルフェウスの姿が紗幕の後ろに佇む。


       < 第八景 誘惑と拒絶>
    
   18 誘惑されて、捨てられて                      「風の詩人」         

        (第一場、第二景と全く逆のことが行われる 。
                 弦がディオニソスの踊り、リズムがオルフェウス)        

        ○ オルフェの化身の踊りを見たディオニソスはすっかりその美しさに恋心を抱く。        

        ○ 竪琴が浮かび上がる。        

        ○ 竪琴を奪った悔恨の情も走り、竪琴を取ろうとし、
          又、紗幕に現れている女の幻影を追い求めるディオニソスがいる                 

          パーシションが入るとオルフェウス(女装のまま)紗幕の後ろから登場         

        ○ ディオニソスは、それがオルフェウスとは気がつかない。              

        ○ オルフェウスは最初は女装しているが、激しく踊り、やがて女の衣装をはぎっ取ってゆく。
         (前の二枚の紗幕が飛ぶ)         

        ○ やがて眼前の女がオルフェウスだと知ったディオニソスの驚き         

        ○ ディオニソスを誘惑し、ディオニソスが寄ってくれば、これを打ちのめすかのように拒絶し、
          昂然と踊るオルフェ  
       
        ○ そして空中の竪琴を取れと命じる         

        ○ 哀願する、悶えるディオニソス許しを乞うが・・・・         

        ○ 空中の竪琴を取れないでいるディオニソスに向かって、竪琴を指し示すオルフェ        

          最後には完全にディオニソスをひれ伏し・・・崩れるディオニソス

 


       <第九景 オルフェの死>
 

   19 二人                   「パガニーニの主題による狂詩曲17」         

          踊りは踊らなくても良い         

          後部紗幕の後ろに竹薮が降りてくる。              

          息絶え絶えに倒れているディオニソス、それを見下ろしているオルフェウス         

          オルフェウスの真性を認めたディオニソスはその魔性的美しさに脅える

          だが、オルフェウスの胸に去来する哀しみと懺悔・・・・

          何てことを、復讐なんて・・・・彼の心に少年のような純粋さが戻る。

                                      

   20 暗殺                    「パガニーニの主題による狂詩曲18」        

          やがて動き始めたオルフェウスは許しを乞うように、

          彼に天上からの光が降りてくる。それに向かって手を差し伸べるオルフェウスの頬に涙が

          起き上がったディオニソスはついに、オルフェウスの背後にせまると

          その首を絞め(照明変化!)、オルフェウスを殺す。(征服?)

          それを予期していたかのようなオルフェウスの面 に安堵が・・・ (宿命?)        

 


        <第十景 嘆きと蘇生 【祠】>        

    21 愁傷                     歌劇「友人フリッツ」より間奏曲

          オルフェウスの死を見て、後悔と悲しみに浸るディオニソスはやがて、         

          死の接吻(紗幕が飛び、竹薮だけになる)         

          「オルフェウスは俺の物になった。
                    しかし心にあるこの感触、それは何という虚しさだろうか」         

          それから死人オルフェウスを舞台中央の竹薮(祠)に埋葬する。
                                  (魂が抜けるように・・・)

      

          竹薮の中に立たされるオルフェウス。その周りを舞うディオニソス。
          だが、垂れ下がったオルフェウスの腕がその時、動く。         
          その指先は何故か、何かを求めるように・・・・伸びる。         

          オルフェウスと別 れかけたディオニソスはその指に気づき、
          自らの指もそれに触れんばかりに伸びて、ポーズ決まり・・・

                    
                                                                                                            暗転        

          空中に竪琴、一本の光る竹が暗闇に浮かぶ  

 

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