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![]() 道化師の祈り ひとつの新鮮な自転車があります。 そして、宇宙に続く温かい一本のロープがあります。 道化師は狂気の蝶のようになって、その自転車を漕ぐにまかせ、 遠くアラビア海から、北極圏を渡り歩き、 シタールを奏でる睡蓮のインドを眺め、 朱と黄色のターバン駱駝の隊商のオアシスを巡る、 独りぼっちの夢見る空中サーカスを演じていたものです。あの頃、星達は笑いさざめき、 確かなる果実を収穫する乙女たちは、 その頭上にある、このまことの喜劇の幕開けを知りませんでした。 道化師も、ただひたすらに自分の夢に夢を描き続けておりました。 それは「絵のない絵本」を書いたお月様の光のペン、 アラジンと消えた魔法のランプの煙、 或は、夜なべする母親の砧の音の中に消えて行く願い しかし、確かなる内的必然をその心に噴出させる、 そのような、ひとつの新鮮な自転車でありました。 そして、道化師はまだ、 孤独に、純粋に、このロープを登って行く夢と、 ひたすらに路傍の石のように黙して語らない、 デクノボーと呼ばれる現実の間で、 いまだに本当に自分が行く場所を知らないのです。 いずれにしてもこの道化師と言うものは、 観客も誰も居ない、照明すら当たらない所で、 働き続ける裏方の道化師なのです。おお、お願いです、月よ、 こうした独りぼっちで黙々と勤める、心弱き者達の夢があります。 それはこの道化師ばかりではないのです。 どうかそうした人達に、優しい眼差しの光を当ててください。おお、お願いです、草よ、木よ、 疲れた彼らの心の美しい慰めの椅子となり、 風よ、雨よ、 どうか緑の衣装や金色の飲物となって、 そうした者達の渇いた願いを宇宙に熔けさせてください。 そうした者達が乗れる新鮮な自転車と、ロープを降らせて下さい。 そして、宇宙の星よ、 目に見えない努力はいつかは救われると、 この道化師に語ってくれたように、 そっといつまでも、夜空からささやき続けてください。 詩集「青の光 」より * ![]() |
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