メルヘン風「恋物語」

長い長い夜汽車が通るまで、
ぼくは美しい茶色の女狐と
恋を捨てる物語にうち興じておりました。
時は春、丘の上。
黒い森の上に出た滑車のお月様
とんがり帽子をかぶって胞子が飛んでゆく
黄色い光に誘われて・・・
さて、長い長い夜汽車が通るまで、
まだ幾分も時はありました、
さりとて、恋を捨てる物語も
尽きることはありませんでした。
やがて、トンネルを抜けたランプの列が
煙管の輪を吐きながら通り過ぎるまでには
美しい茶色の女狐とぼくは
涙の河を渡っておりました。
それから、ぼくは丘を降り
女狐は一本の月見草になりました

詩集「青の光」より
*
 
Copyright (C) 2000-2002 SHIGEO OWA. All Rights Reserved.