Appendix C : “ブラウザ”と HTML

 ご覧のとおり本稿は“ブラウザ”の側から HTML を解説したものではない。だが“ブラウザ”という UA から HTML が閲覧されることが多い以上,それらとの関わりにも触れておく必要があるだろう。

Netscape Navigator

 本稿をご覧でこの名を知らない方はおりますまい。Netscape Communications 社のブラウザである。バージョン 2,3,4 と,この異常なまでのバージョンアップのスピードは,インターネットの世界がいかに速い世界であるかを物語っている。

 Netscape Navigator は WWW におけるプレゼンテーションの向上の牽引役であった。このブラウザの登場とバージョンアップに伴って,WWW の表現力とキャパシティは確実に向上していった。Java の採用や,JavaScript,フレーム化された文書などはつねに話題を呼んだ。その一方で,表示に関する属性を数多く導入し,文書の構造を記述するという HTML の基本概念をゆがめてしまったという側面も忘れてはならない。

 Netscape Navigator は 2.0/3.0/4.0 とも HTML 3.2 相当のフィーチャーはほぼ網羅し,Java,JavaScript に対応している。Netscape Navigator 4.0 は多くの不備を残すかたちではあるが,CSS に対応している。

 独自の要素もかなりある。文字を点滅させる <BLINK>,プラグイン用の <EMBED>,Netscape Navigator 4.0 では,“位置決め”の <LAYER> などがある。とくに <LAYER> は,完全に表示をコントロールする要素であり,対応しない UA では表示がおかしくなるので,それこそ“Netscape Navigator 専用”のページになりがちである。

 2000 年 10 月現在,次期バージョン“Netscape 6”が秒読みに入っている。新たなレンダリングエンジン Gecko を搭載し,HTML 4.0,CSS1 といった WWW の標準に忠実に対応した新たな Netscape ブラウザは,WWW パブリッシングに大きな波紋を投げかけるに違いない。

Internet Explorer

 Microsoft 社の Netscape Navigator の対抗馬たるブラウザである。Netscape Navigator を追撃してあっと言う間に 4.0 までリリースされ,2000 年 10 月時の最新バージョンは,Windows 版で 5.5,MacOS 版で 5.0 である。

 Netscape Navigator との互換性は高い。それに,ActiveX などの新技術が投入されているが,それらがあまりに OS に近すぎるために,セキュリティの問題に悩む点も出てくる。

 Internet Explorer 2.0 は HTML 3.2 に一部対応,3.0 は HTML 3.2 をほぼすべて網羅,HTML 4.0 のフィーチャーも多少含まれるが,CSS は不完全な対応状況である。4.0 は CSS1 によく対応しており,HTML 4.0 の記述もある程度できるようになっている。5.0 は XML のサポート,ルビ(これは,2000 年 10 月現在 W3C で策定中で,フライング実装である)および VML(これは,W3C に提唱したベクトルグラフィクスの規格で,SVG という標準が勧告されようとしている今,“独自規格”である)のサポートがされた。5.5 では CSS に対するレンダリングのバグフィクスが多くなされており,それまで何とか“実用レベル”だった CSS を,かなり仕様に忠実に実装した。MacOS 版にはバージョン 4.5 がある。

 独自要素は BGM をならす <BGSOUND>,変わり種としては文字を“流す”<MARQUEE> がある。これらは特に再現されなくても問題が生じるものではない。

NCSA Mosaic

 Mosaic といえば,数年前は WWW の代名詞であった。現在の Netscape Navigator,Internet Explorer も,この Mosaic が基盤にあることは疑いない。

 とは言っても学術機関ではまだ用いられていることも多い。本稿執筆時点でフレームに対応していないので,思いやりなく“Netscape でご覧ください”と出されてひじょうな迷惑を被ることもある。

Lynx

 ノングラフィカルなブラウザの代表といってよいだろう。Netscape Navigator や Internet Explorer になれた人たちが,Lynx で WWW をのぞいたら驚くに違いない。

 たとえば,<H1> の表現手段は“大きな字”ではなく“センタリング”になる。HTML は文書の構造を記述するのだから,センタリングによってそれが見出しと判断できれば,その表現でよいのである。

 画像の表示なども行わないため,現在の WWW においては大きなディスアドバンテージを背負うことになるのだが,ノングラフィカルならではの軽快な動作を好んで愛用する人もいる。

 Lynx で特筆すべきなのは <LINK> を反映し,便利なナビゲーションを行うことができる点である。

 WWW ページを作るに当たっては,こういったノングラフィカルな環境を考慮する必要もある。

その他のブラウザ

 このほかにも特筆すべきブラウザとしては,CSS をかなり忠実に実装する Opera,MacOS 用で HTML の文法診断を行うことができる軽快なブラウザ iCab などがある。