Synth Fantasy
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スター・システムとは・・・ -- TOMITA Sound vs TEZUKA World --


 スター・システムとは、もともとはハリウッド映画で使われていた言葉です。チャップリンが役者仲間たちと新しい映画会社を起こした時に、スター俳優を企画の中心に据えた映画作りを目指し、そのことを称して「スター・システム」と呼んだのです。それ以来、トップ・スターを中心とした 映画製作システムのことをこう呼び習わすようになりました。
 さて、手塚マンガにおけるスター・システムとは、マンガの登場人物をさながら映画俳優のように扱うということです。つまりひとりの役者がいろいろな役を演じるように、ひとつのキャラクターがいろいろな役に扮してマンガを演じているということです。ひとつのマンガの主人公が別の作品の中では脇役の、しかも悪役を演じるなんてこともあるのです。手塚マンガでは登場人物を本物の俳優のように考え、手塚治虫氏自身は監督として彼らに演技をつけることを楽しみとしたのです。読者にとってもアトムが別の作品では誘拐犯の息子を演じたりしている姿を見ることも楽しみの一つでした。手塚氏はそれぞれのキャラクターたちのギャラまで考えていて、本当にマンガ作りを映画作りと重ね合わせて、ハリウッドの大物監督気分を楽しんでいたのがわかります。(※以上、TEZUKA OSAMU @ WORLDより引用)

 一方では、古くから手塚アニメの音楽を担当している冨田氏ですが、手塚マンガに影響されたのでしょうか? トミタ・シンセサイザー・サウンドの中にも、アルバムの演奏の随所に顔を出す常連(お馴染みの音色)がいます。出来不出来は別にして、試行錯誤しながら徹夜でモーグ・シンセサイザー作り上げたこれらの音色に対して、わが子のように愛着のある連中だという。主なキャラクターに、パプペポ親父、口笛吹き、少女のハミング、女神のソプラノ、森のコーラスと名付けている。今後も引き続き登場してくるそうですので、可愛がって頂ければ、冨田氏としてもこの上もない幸せであるに違いありません。
 また、冨田氏が100%自在に操ることのできる専属のデスクトップ・オーケストラを、「プラズマ・シンフォニー・オーケストラ(PSO)」と名付けており、シンセのそれぞれの音色を構成するモジュールを楽団員として扱っている。また、 2015年発売のスペース・ファンタジーでは、冨田勲&スペース・シンフォニー・オーケストラ(Electrically created by ISAO TOMITA & SPECE SYMPHONY ORCHESTRA)となっている。

いろいろな音色


-- TOMITA Sound --

-- TEZUKA World --
(※TEZUKA OSAMU @ WORLDより引用)
  • パピプペ親父
     
    1972年デビュー、パプペポ親父とも言う。トミタがモーグを駆使して喋らせようと作成した、音声合成装置「パ行回路」を通した人の声に似た音色。「イーハトーヴ交響曲」(2012年)で起用した「初音ミク」(2007年デビュー)の親父的な存在で「ボーカロイドの始祖」とも言われている。冨田氏も少々手を焼いているキャラクター。最初は手塚治虫氏の漫画によく出てくる「ヒョウタンツギ」のようなつもりで作ったのであるが、あちらは控えめで上から何かが崩れてきたような時などに、最後にポコンと遠慮がちに落ちてきたりする程度であるが、「パプペポ親父」は、結構目立ちたがりやで、スタンド・プレイがお得意。しかし、このオッサンに一旦お引き取り願って聴いてみると、いざ居なくなると不思議にも何とも寂しいのはなぜでしょうか・・・。
    • ラブ・ミー・テンダー(スイッチト・オン・ヒット& ロック)
    • ゴリウォーグのケークウォーク(月の光)
    • チュイルリーの庭(展覧会の絵)
    • 電気仕掛けの兵隊の行進(バッハ・ファンタジー)
  • ヒゲオヤジ
     
    「彼は神田の生まれで、若禿、若白髪で、粋な私立探偵としてよく登場し、事実、ぼくの作品のなかではいちばんの古顔である。だが、本当は、彼は大阪伊丹の生まれで、しかもぼくのオリジナルではない」 と、手塚治虫が『ぼくはマンガ家』の中で自ら告白しているように、この手塚マンガに欠かせない名物キャラクターはじつは、中学校時代の友人が落書きした彼のおじいさんの似顔絵でした。その似顔絵を拝借して『オヤジ探偵』を描いた時から。このキャラクターは手塚マンガの世界で生命を持ったのです。短気でガラッぱち。それでいて人情に厚く、正義感に燃えている。そんな決して格好良くない中年男の心意気を演じ続ける彼は、探偵役にととまらず、寿司屋の大将や息子との信頼関係を取り戻そうと必死になる父親、プライドの高いスリなど、数々の作品で名演技を披露してくれます。『緑の猫』では、髪黒々の若い姿を見ることが出来ます。

 

  • 口笛吹き
     いろんな人がシンセで口笛を作りますが、どれも今ひとつ。その点、冨田氏の作る口笛は天下一品です。ホワイト・ノイズを発振させた元となる音は、適度にノイズ感が残り息を吹く感じが出ています。複数のエンベロープ・ジェネレーターを駆使し、吹き始めの不安定な感じや少し遅れてから効果のかかるビブラート、滑らかなボルタメントなど、本物よりも本物らしい口笛に仕上げています。その上、エコー処理のうまさも手伝って宇宙的な感じを表現することも可能にしているのです。
    • アラベスク第1番(月の光)
    • 古城(展覧会の絵)
    • スター・ウォーズのテーマ(宇宙幻想)
  • ヒョウタンツギ
     マニアにとっては手塚漫画最大のスターでしょう。妹さんのイタズラ描きから誕生し、画面に常に突然現われる、わけのわからない一種のギャグ生物。赤塚不二夫氏のケムンパスや谷岡ヤスジ氏のムジドリ、音楽では冨田勲氏の独特の音色である "パプペポ親父" などに影響を与えたのかもしれません。そんな意味でも日本漫画史上に残る貴重なキャラクターだと言えるでしょう。彼が主役を演じた作品が、じつはマンガではなく小説のほうにありますので、興味がおありでしたらお読みになってみてください。



  • 少女のハミング
     このハミングの手法はちょっと難しいぞ。と、冨田氏はおっしゃっています。でも、あえてやり方は教えてくれませんので、自分で工夫して創ってみましょう。筆者の解釈では、テルミンの奏法にヒントが隠されているのではと考えています。ハミングの微妙な音程変化は、ドレミでは表現できません。また、音程や強弱によって音色(声質)も変化します。ハミングを一本の曲線と捉え、ピッチベンド情報をうまく用いればそれなりに表現できるのでは・・・。
    • 亜麻色の髪の乙女(月の光)
    • 金星(惑星)
    • 美女と野獣の対話(ダフニスとクロエ)
    • アヴェ・マリア(バッハ・ファンタジー)
  • お茶の水博士
     『鉄腕アトム』シリーズにおける、アトムの科学的な後見人。大きな鼻は、描いているときペンがすべったからとか・・・。アトムシリーズでは常にアトムを庇護する父親変わりの存在として数々の名演技を披露としていました。アトムに「人間の心」を説き、「正義とは何か」を教える名教育者でもあります。オッチョコチョイで涙もろいお人よし、数々の大発明をしながらも、すぐに盗まれて(本人が誘拐されることもたびたび)悪用されそうになってしまう、という部分は「ハリウッド映画の描く天才科学者」に近い個性です。そう『うっかり博士の大発明フラバー』とか『バック・トゥ・ザ・フューチャー』みたいな感じですね。


  • 森のコーラス
     森のコーラスも幻想的な表現をするのに効果的に使われています。アナログ的サンプラーのメロトロン(磁気テープ再生楽器)の音が使われていますが、これはシンセサイザーではなく音源はテープです。半音づつ「アー」とか「ウー」ただ伸ばしただけの人間の声が、キーボードを押さえるとその下のテープが回り出して音が出てくるという仕掛けで、現在のボーカロイドの元祖コーラス版ともいえます。これにシンセサイザーを併用し音色を調整したり表情をつけ、さらに深めに残響をかけています。
    • 習作「愛」<コンポジション>(ダンスイメージと創作過程)
    • 沈める寺院(月の光)
    • 木星(惑星)
    • 夜明け(ダフニスとクロエ)
    • 亡き王女のためのパヴァーヌ(ダフニスとクロエ)
    • 眠りの森の美女のパヴァーヌ(ダフニスとクロエ)

  • 女神のソプラノ
     女神のソプラノには、シンセサイザーを使って少女のハミング同様の手法を使う場合と、メロトロンの音を加工して使われる場合があるようです。 ※前者については少女のハミングのテルミンの奏法についてを参照。
    • この胸のときめきを(スイッチト・オン・ヒット& ロック)
    • プロムナード(展覧会の絵)
    • 海王星(惑星)

  • トミタ・ストリングス
     主にモーグの音を何重にも重ねて作ったシンセサイザー・ストリングス。ひとくちにトミタ・ストリングスと言っても必ずしもいつも同じではありません。作品の作られた時期やコンセプトによって元になる波形や音源自体が違う場合や、作り方、重ね方も違っておりそれによって音色も変化しています。全般的に言えることは、弦楽器の良さでもある人間臭さや生々しさがとれて、さらっとした感じが特徴です。個人的には惑星で使われているストリングスが一番好きです。

  • イースタン
    アタックがある程度あって、持続する広がりのあるシンクラビアIIの音
    • 大峡谷
    • 訪問インタビュー
    • アルビントフラーの第三の波

  • アラベスクの鐘(仮称)
    アラベスク第一番や沈める寺などで使われている鐘系の音。余韻が短いのが特徴。
    冨田氏は鐘の音を何回も聴いて自分自身の耳で分析していると、一つの鐘の音の中には幾つもの音が混ざってできていることに着目しました。トミタ・サウンドの鐘は、鐘の音特有の不規則な倍音構造を表現するために、複数のオシレーターを使って、一つ一つ作った音を重ねて、これを表現しています。SACDアルバム「月の光 ULTIMAITE EDITION」2曲目の「口笛と鐘」では、鐘の音の制作過程を公開しています。その中では、5 つのサイン波(2.6kHz,3.5kHz,2kHz,1.35kHz,850Hz位の持続音)を混ぜ合わせたものを元に、エンベロープ・ジェネレーター(Envelope Generator)で鐘の音の立ち上がりから減衰の調整方法、音階の付け方、リバーブ、エコーをかけるまでの工程を聴くことができます。
  • オルガン弾きI (仮称)
    銀河鉄道の夜やみんなのせかい、風の又三郎など、トミタ作品によく登場する味のある街頭手回しオルガン風の音色。イーハトーヴ交響曲でも登場。
  • オルガン弾きII (仮称)
    こちらは足踏みオルガンで、イーハトーヴ交響曲に登場。
  • トミタ・ファンタジア(仮称) ※音の作り方→
    みんなのせかいやアランフェスなどで使われている水の跳ねるような独特なサウンド
  • おなじみ「二声の木管系」(仮称)
    二声の木管系の音でポルタメントがかかった持続音のアルペジオ
  • キラキラ・スター(仮称)
    銀河鉄道の夜の冒頭などで登場するキラキラ系の旋律
  • トミタ・キャット(仮称)
    卵の殻をつけたひよこの踊りに登場する猫系の音
  • トミタ・キュー(仮称)
    バミューダ・トライアングルなどで使われているテープの早回し的な音
  • トミタ・シーケンス(仮称)
    木星の冒頭などに見られる3パターンの上昇スケールが数回繰り返す独特なシーケンス・パターン
  • トミタ・ソフト・ホルン(仮称)
    ニュース解説テーマなどに使われている柔らかいホルン系の音
  • トミタ・バード(仮称)
    卵の殻をつけたひよこの踊りやダフニスとクロエに登場する小鳥系の音
  • トミタ・ミュート(仮称)
    水星の最後の方や豪雨(大峡谷)などで、演奏が一瞬ミュートっぽくなる独自の効果
  • トミタ風エレピ(仮称)
    月の光の冒頭などで使われている少し遅れてトレモロがついてくるエレクトリック・ピアノ風な音
  • トミタ風オルガン(仮称)
    ソラリスの海などで聴くことができる荘厳なパイプ・オルガン
  • トミタ風チェンバロ(仮称)
    展覧会の絵の初めのプロムナードや木星の中に出てくるチェンバロ系の音
  • トミタ・ハープ
    水星で使われているハープ風の音。実際のハープでは演奏不可能な奏法に挑戦している。
  • 初音ミク
    2007年デビューの彼女だが、2012年「イーハトーブ交響曲」でプリマドンナとしてトミタとコラボした。
  • フィドル弾き
    ウォーターランドのウェスタンバイオリンの音!本当に素晴らしいですね!あのノリのだし方を当時はMC-4ですか?細かいデータなんだろうな…凄いですよね!ボウイングまでもが目に浮かびます。(相原氏が命名)

※音色や効果の仮称の名前は筆者の思いつきで仮につけたものです。


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