Synth Fantasy
| HOME | BACK | NEXT |



見つけよう遥かな音〜冨田勲の世界

ビクター・オーディオ・サロン「ザ・ミュージック」より〜


(インタビュアー) 今夜のビクター・オーディオ・サロン「ザ・ミュージック」は、見つけよう遥かな音〜冨田勲の世界と題しまして、シンセサイザーによる新しいサウンドの創造者、冨田勲さんをお招きしております。

(惑星より火星の冒頭)

 この宇宙船の発射を思わせます、それから宇宙船に乗ってまるで宇宙に旅しているようないわば現代のサウンド、いや、むしろ未来のサウンドと申すべきでしょうか。この、冨田さんのシンセサイザーのサウンドに初めてお触れになれば非常に驚かれる方が多いと思います。それからまたその多種多様な、ある時は人間の声を模した大コーラスであったり、それから素人にはどうしてもわからない複雑な音であったり、そのすべてが電気によって作り出されていると聞かされれば、どなたも多分唖然となさるんじゃないかと思うんです。只今ちょっと最初にお聴き頂きましたのはシンセサイザーによるトミタ・サウンド、その4作目に当たりますホルスト作曲「惑星」の部分です。冨田さん今日はどうも有り難うございます。冨田さんは4年前、シンセサイザーの第一作目としてドビュッシーの「月の光」というタイトルのレコードが出まして、ムソルグスキーの「展覧会の絵」、それからストラヴィンスキーの「火の鳥」を中心にした一枚と、ホルストの「惑星」へとだんだん発展致しまして、現在第5作目をご制作中という事なんですが、私たち素人から言いますとやっぱり気になりますのは、一体どうやってあのような音を作り出されるのかと言うことなんですね、一曲に実に長い時間をおかけになる。LPで一番おかかりになったのは何カ月とおっしゃいましたっけ。

(冨田) 「月の光」は1年4カ月、ですから演奏すると言うことよりも、どちらかと言うと竹細工とか絨毯(じゅうたん)折りのような仕事になりますね。

(インタビュアー) そうですね・・・。簡単な説明というのは難しいと思うんですが、例えば何かの曲を例にして苦心された点、音作りの工夫みたいな事をお話頂けると嬉しいんですけれども。

(冨田) これはね、長くなっちゃうんですよね・・・。
 シンセサイザーというパレットを使いまして、最初に頭に浮かんだ音の一番の元になるカラー、色で言えば色彩に当たる部分、それをまずシンセサイザーで音を組んで、そしてその音を演奏するわけです。そしてその音をマルチチャンネルのテープレコーダーの、16チャンネルのうちの一つのチャンネルに入れるわけです。それが完了するとまた音を変えて別なチャンネルに足していくわけです。これが16チャンネル一杯になりますと、いったんミックスダウンして別なテープレコーダーへ録音して外へ出してしまうわけです。それからまた、次の音をどんどん足していくわけなんです。その後に今度は音場を作らなくてはいけない。結局、素材だけが並んでるだけですから、我々が実際に音楽を聴く場、遠近感、移動、そういった作業をその後やるんです。これは大体シンセサイザーから音を引き出すのと同じ位の時間がかかります。普通の演奏ですとステレオの2つマイクを向けただけで、オーケストラのファースト・バイオリン、セカンド・バイオリン、ティンパニーが何処で、ブラス・セクションが何処だという配置が自然にそこへできているわけですけれども、それが全くないわけですね。ですからそういった状態を作るわけです。ただ、それが常識的な配置でなくてもシンセサイザーの場合はいけるわけで、やり易いと言えばやり易いんです。

(インタビュアー) しかし、大変な作業ですね。この中から雨の庭の音を後でちょっと聴いていただきたいと思うんですけども、この雨の音の中には、確か雷が出てくると・・・。

(冨田) ええ、後で足したんですけれども、おととし東京に非常に大きな雷が夏にありまして、それを家のマンションの屋上でとったんです。実は雷って言うのは、電子音の一番の先祖なんですね。つまり地球が誕生してまだ地面が固まらなくてドロドロしてる間に、もの凄い上昇気流で起きた一つの雷現象ですね。それによって、もの凄い雷鳴が轟いてたんじゃないかと思うわけです。その後、火山の爆発音という電子音でないものが出てきたわけですね。ですから雷というのは、あくまで電気の電流によって発する音で、そう言った意味に於いてはシンセサイザーと非常に似てるところがあるんです。
 私も一回すぐ近くで落雷に遭いまして、それは今から何年前になるかな・・・平湯温泉から乗鞍へ自分一人で運転して、乗鞍の頂上へ運転してたわけです。雨が降ってなかったんでその時窓を開けていたんですけれども、10メートル位先に雷が落ちたんですね。雷っていうのは最初パキーッていう竹を割るような音がするわけですね。やがてそれが、ゴロゴロゴロゴローッていうしまいには非常に低音部の音ですか、地鳴りのような音にかわっていくわけです。雷っていうのはどういう仕組みでああ言う音がするんだろうと言うことを、帰ってから考えてみたんです。
 結局1万メートル上からの放電ですね。この放電は一瞬なんだけれども、音って言うのは距離が離れるに従って遅れて行きますでしょ、ですから10メーター前の木に落ちたその部分の雷鳴は瞬間的に直接耳に入ってくるわけです。3300メートルですか、これが10秒遅れますね。1万メートルと言うことになると1分近く遅れてくるわけです。その間、空気を通る長さというのは随分違うわけです。シンセサイザーをいじった方はお解りになると思うんですけれども、この空気というのはどちらかと言うとロー・パス・フィルターと思うんですよ。ですからロー・パス・フィルターに雷が自然のエンベロープがかかってるわけで、非常に10KC位を含んだ高い成分の音から、最後は20ヘルツ位の低い音までが、エンベロープがかかって徐々に変わっていくわけですね。それから雷の発生する雷雲というのは中で凄い上昇気流、空気が動いてますから。そこで一つのフェーズ効果、まあ僕らはそれを電気的に起こすためにフェーズ・シフターと言うのを使っていますけれども、その現象もそこにあります。それから、山であるとか、都会ではビルであるとか、そう言うところに音が突き当たって跳ね返ってくる。これは一つのエコー・マシン効果ですね。それから、最初自分の近くに落ちた瞬間というのはモノーラルの音だと思うんです。一点から聴こえてくる。
 それが、時間が経つに連れてだんだん音場が広くなっていく、ひろーい範囲から最後はもうどこから聴こえてくるかわからない状態になるわけです。この変化の仕方と言うのはミキシング効果だと思うんです。と言うわけでね、やっぱり天然のシンセサイザーですね、雷って言うのは。ですから、この雨の庭では、その天然のシンセサイザーと人間の作ったシンセサイザーの対比みたいなものを組み合わせてみたんです。


Synth Fantasy