そんなある日、鷲のギンジロに変わって今度、演出家に選ばれたネズミのチョリノが樫の木のカウンターに座って、木の実をカリカリやっていましたが、
「ねえ、ケンタさん、僕は考えたんだけど、この芝居自体がつまらなくって皆こないんじゃないだろうかね。つまり、皆が来ないのは台詞とかそう言う問題ではなくて、話自体に引かれるところがないと。もしそうだとすれば、これは見に来る動物達も面 白くないのじゃないだろうか。」
「だって、まだ時間もあるし、本当の芝居の詰めまでいってないじゃないですか。それにこの芝居のテーマを最初に言い出したのはあんたですよ。」  
  犬のケンタは本の事を言われたので、ちょっとムッとして聞き返しました。
「いやいや、そうむきになってはこまります。私の言いたいのは、なぜ素人劇団と西土ノ森劇団などが違うかと言うと、演出家のイナセマキ先生の人気は勿論根、人気動物が出ることもあるが、一番の違いは何をやるかという主題に対する、脚本の目の付け所がイナセマキ先生と違うのではないかと。「それは僕はイナセマキじゃないですよ。では、時代劇はつまらぬ というのですか。」
「まあ、まあ、そうも言えますが、僕が言いたいのはですね、もっとこう今日的なテーマとテンポのことです。早く言えばもっと、現代的な動物達の風俗を取り入れることですよ。」
「チョリノさん、ちょっと待ってくださいよ。僕は何も専門的な劇団を作ろうなんて思ってたわけじゃありませんよ。フクロウさんが言うようにここに集まる皆でひとつ何かしようというその気分にのったんですよ。」
「だから、いけないんじゃないんですか。そりゃあ最初はそうでも、いざそうなると皆、その気になるのだから、そこで、スタッフの我々は皆の気を引くために、もうひとつ先に進まなければいけませんよ。そうすれば皆ついてくる。すなわち話がもっと面 白くなって、皆が興味を持つ様なものに変えるわけですよ。」
「そうかな、そんなに面倒なことかな。僕はただ、普段皆がお祭り好きだから、芝居をやること自体に乗ったんだと思ってたんだから。だって最初から素人でやろうってんだからな」  
  こう、ケンタが言ったときです。
「違うようよーだ。」  
キジ親父がこう言って、バンダナを引き締めながら出てきました。
「チョリノ。それは違うよ。そんな理論とかそんなことはどうでもいいの。皆はね、ただ飽きっぽいだけなのさ。最初はいいけど、自分自分の生活に戻ると、ああ、あの時は酒の勢いで、そう言ったけど実際はそううまく行くまいって思いはじめちゃうのよ。自分達が面 白がったことを、実行に移そうとなると、面倒臭くなってしまってね。飽きちゃうの。ただそれだけ。」  
  こう言うと、キジ親父はちょっとそこまで行ってくるから、適当にやっててと言って、店を出て行きました。
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