ここでは,やや複雑なセレクタを紹介する。これらは,効率よくスタイルの適用を行う場合に避けては通れない方法である。
1.3 で触れたように,CSS では一般に,宣言とおよびそれを適用させるべき要素を指定する。この“宣言を適用させるべき要素”はセレクタによって指定される。
これまでは,要素名を直接指定するシンプルなセレクタであったが,“X 要素の下位要素である Y 要素に対して”というような“絞り込んだ”セレクタの指定方法も用意されている。これを下位要素セレクタという。
下位要素セレクタは,2 つ以上の要素名を空白で区切って指定する。すなわち
要素名 要素名
のようになる。たとえば,P EM
というセレクタは,“P
要素の下位要素である EM
要素”と一致する。このとき,一致するべき要素はあくまで EM
要素であることに注意していただきたい。
下位要素セレクタの例をご覧いただこう。
H1 EM { color: green; }
P EM { color: navy; }
これらはいずれも EM
要素に対してであるが,それが H1
の下位要素であるか,P
の下位要素であるかによって異なるスタイルが適用される。
<H1><EM>拡散方程式</EM>とランダムウォーク</H1>
<P> 拡散方程式は,時間および位置を離散化し,<EM>1 単位時間後に位置を半々の確率で 1 つ動く</EM>という<DFN>ランダムウォーク</DFN>の連続極限として得ることができる。</P>
拡散方程式は,時間および位置を離散化し,1 単位時間後に位置を半々の確率で 1 つ動くというランダムウォークの連続極限として得ることができる。
また,このセレクタは“下位要素”で絞り込むので,上の例のように必ずしも子要素でなくても適用される。さきほどのスタイルシートを用いて,
<P> 熱力学の第二法則は,さまざまないい表し方をされる。そのひとつに,<Q>熱を<EM>すべて</EM>仕事に変換することはできない</Q>というものがある。</P>
この中の EM
要素は P
の子要素ではないが,下位要素ではある。したがって,この EM
要素にも P EM
のセレクタを持つルールセットが適用される。
熱力学の第二法則は,さまざまないい表し方をされる。そのひとつに,熱をすべて仕事に変換することはできない
というものがある。
下位要素セレクタは,2 つの要素名を並べるだけでなく,それ以上でも構わない。たとえば,BLOCKQUOTE P EM
は,“BLOCKQUOTE
の下位要素である P
の下位要素である EM
”と一致する。
CSS1 では,下位要素セレクタはコンテキスチュアルセレクタと呼ばれていた。
下位要素セレクタと似たものに,子要素セレクタがある。これは,絞り込みが子要素のみに適用される。子要素ではない下位要素には適用されない。
書式は,要素名を大なり不等号「>
」で結んで指定する。
要素名 >
要素名
大なり不等号の前後の空白はなくてもよい。
これも,たとえばセレクタ P > EM
に対して,“P
の子要素である EM
”と一致する。
次のスタイルシートを用いて,前項の 2 つの HTML を出力させる。
H1 > EM { color: green; }
P > EM { color: navy; }
を指定したならば,出力は,
拡散方程式は,時間および位置を離散化し,1単位時間後に位置を半々の確率で 1つ動くというランダムウォークの連続極限として得ることができる。
熱力学の第二法則は,さまざまないい表し方をされる。そのひとつに,熱をすべて仕事に変換することはできない
というものがある。
前者では,2 つの EM
要素はそれぞれ H1
および P
に対して子要素の関係なので,それぞれのセレクタと一致している。後者の例では,EM
要素は P
の(下位要素であるが)子要素ではないので,P > EM
のセレクタとは一致しない。
子要素セレクタも,下位要素セレクタと同様に深い絞り込みができる。たとえば,BLOCKQUOTE > P > EM
では,“BLOCKQUOTE
の子要素である P
の子要素である EM
”と一致する。
また,下位要素セレクタとの組み合わせも可能で,DIV > OL EM
では,“DIV
の子要素である OL
の下位要素である EM
”と一致する。
子要素セレクタは,CSS2 で新たに導入されたものである。