Section 16 : あなたの情報を,世界へ!

 Academic HTML 4.0 も,いよいよフィナーレである。ここでは,HTML で WWW に情報を発信することについて,考えてみたい。

HTML を書くということ

 HTML を書くにあたって,それを“道具”として世界に向けてあなたの情報を発信するにあたって,どんなことを考えるべきなのか。W3C のドキュメントで述べられている 3 つのことをキーワードにして,考えてみたい。

■ 構造と表現を分けて記述せよ

 文書構造を記述するマークアップ言語としての HTML の性質は,すでによくおわかりであろう。HTML 4.0,とりわけ HTML 4.0 Strict では,一部を除いて表現はすべてスタイルシートが担う。

 HTML を編集するにおいては,エディタとブラウザの組み合わせで,ブラウザ上で“表示を”確認する場合がほとんどであるから,往々にして“うまく表示されるだろうか”ということを考えながらの確認になってしまう。それで,表示が“おかしい”とわかると,何の杵柄だが知らないが,手当たり次第にタグやらを書き込んでいく。それで“うん,きれいにできた”と公開すると,文法めちゃくちゃの“きたない”HTML だったりする。

 表示がおかしいのは,たいていは構造の記述が誤っているからである。あれ,と思ったら,それをむりやり修正するのではなく,自分の書いた文書がどんなつくりをしているかを考えながら HTML を読み返してほしい。HTML の要請を満たすブラウザであれば,正しい HTML に対しては,決して派手ではないが,こぎれいにまとまったレイアウトで反応してくれるはずである。

 本稿執筆時点(1998 年 10 月)では,HTML 4.0 の要請を満たした UA は存在しない。そしてしばらくは,HTML 4.0 Transitional に相当する HTML が書かれるだろう。そこでは,HTML 3.2 と同じように,属性で表現を記述するが,そこでも構造の記述をないがしろにしてはならない。

 また,本チュートリアルで解説した事項の中には,それを記述してもお手持ちの UA では“何も起こらない”ものもある。かといって,反映されなければ書かないという問題ではない。いずれそれらを適切に扱う UA が登場するであろうし,登場すべきである。

■ WWW での広範なアクセシビリティを考慮せよ

 インターネットはすべての人のものである。できるだけ多くの人に,あなたの情報にアクセスできる環境を整えるべきである。たとえあなたが最新型のパソコンでページをつくっても,ひと昔前のパソコンを使う人にも,もしくはノングラフィカルな UA を使う人にも,そしてなにより,ハンディキャップを持つ人にもアクセスされることを忘れてはならない。

 コンピュータの進歩は,わたしたちに表現の機会と手段を与えてくれている。それは,新技術ほど魅力的な表現を可能にするだろう。だが,そうしてつくったコンテンツはつねに望んだとおり閲覧されなくてはならないと頑なになるべきではない。

 絵が動かなければ,動かさないで精一杯伝える。絵が出なければ,言葉でわかってもらう。回転の速いこの世界で up-to-date でないことに対するディスアドバンテージは多少は覚悟しなければならないが,送り手も up-to-date を強要せず,できる限りの方法で伝えたいことを伝えようとする姿勢を持つべきであろう。創造力も,思いやりも,惜しまず注がれた情報は,きっと大きな価値がある。

 ほんの偶然でハンディキャップを負うているがために,じゅうぶんな情報を得ることができないのは酷である。誰でも,知りたい情報が公開されているならば,分け隔てなくアクセスされるべきである。

 ボランティアの方々の手によって,情報がハンディキャップを持つ人にもアクセスできるメディアにされていることはよく耳にされると思うが,莫大な情報の集まりである WWW においては,まずはあなたの思いやりが必要なのである。その 1 行であなたの情報に下げられたブラインドが上がるのであれば,それを惜しんではいけない。

 あらゆるメディアで満足な出力を得るためには,HTML がきちんと記述されていなければならないだろう。見てくれをよくするために構造をゆがめた HTML,その結果特定の“ブラウザ”でないと“見る”ことすらできない HTML は,アクセシビリティの観点からすると,きわめて価値の低いものと言わざるを得ない。

 もうひとつ考えなくてはならないのは“世界”である。あなたの情報を何か国語にも翻訳しておくということではなく,海の向こうであなたのページがアクセスされたときに,文書に対してじゅうぶんな情報を与えておけば,正確に出力される可能性が高くなるかもしれない。

 また,こういった世界中の大量の情報の中で,それをほしい人に届けられる状況にしておくのも大切である。

■ UA を待たせないよう心がけよ

 回線の増設が進んでいるとはいえ,World Wide Wait と茶化されもする WWW では,ブラウザも“読み込んだところまで”をまず表示するような工夫がされていることが多い。

 ところが,文書のファイルサイズに比べて大きな画像が,その大きさもわからないまま貼り込まれていたりしたら,その画像の大きさがわかるまでブラウザはレイアウトを待たなくてはならないかもしれない。または,再度レイアウトし直すという二度手間をしなくてはならないかもしれない。

 それを回避するには,前もって画像の大きさがわかっていればよい。また,画像が表示される間に,代替文字列が表示されていれば,画像の内容を推測できるだろう。

 これと同じ状況は,表組でもあり得る。表組は,1行あたりのセルの数がわからないとレイアウトが始められない。また,セルの数がわかっていても,最後まで読まなくては,幅をどのように配分するか決められないかも知れない。とりわけ大きな表組では,かなり待たされることも少なくない。

 表組を,ブラウザを待たせずに表示させるには,とりあえずは 1 行あたりのセル数と列幅が前もってわかればよいということになる。基本的に,<COL><COLGROUP> を用いてすべてのセルの幅を指定すればよいが,表組全体の幅が不明のときには,相対指定を用いたときにブラウザが“待って”しまうことがある。また,表組のレイアウトに関するアルゴリズムは,ブラウザによって差があることもあろう。

 もっとも確実なのは,すべてのセルの幅をピクセルで指定してしまうことであるが,そうすると,表組の幅が広いときなどに,ブラウザの幅が狭かったら,画面をスクロールさせる必要が生じ,結果的に操作性,ひいてはアクセシビリティの低下を招く。

 総じて,HTML にあなたの情報を乗せて発信するにあたっては,その発信という行為が単方向的なものであっても,つねに受け手を,しかもグローバルに,意識する必要がある。少なくとも WWW では,自分の情報に盲目的になり,マイノリティを殺すような,ともすれば“英雄”と呼ばれるような,態度をとることは,結局英雄でも何でもなく,情報を出し渋り,発信する気なく自己満足するに等しい。

あなたの情報を,世界へ!

 電子化が情報化を加速したのは,間違いではあるまい。手書きの青焼きやガリ版印刷から,ワープロを経て,ペーパーレスの時代が,そこまで来ている。もしかしたら,もう来てしまったのかもしれない。

 ワールドワイドにガリ版が駆けめぐるのは,まず考えられない。ワープロの文書も,印刷が前提だから,モノと切り離された情報とはまだ言えそうにない。HTML が構造を記述するというのは,それが,表現として借りるモノという媒介から切り離されることを企図しているからではあるまいか。それゆえに,逆にさまざまな表現手段を通してアクセスされるポテンシャルを得たのではなかろうか。

 さあ,あなたのもてる情報,創造力,そしてすべての人への思いやりを持って,あなたの情報を,世界へ,発信しよう。HTML は,その身軽さのうちに秘めたダイナミズムで世界を駆け抜ける。そこに,情報化という津波に呑まれた世界に,混沌から点と点が線で結ばれ,それがやがて,ひとつのものを形づくるとすれば,それは,電子化された世界以上の World Wide Web に違いない。