Hints of fonts on the web―Web におけるフォントのヒント

Appendix A:無償利用できるフォント

 本節では,無償で利用できるフォント,特に和文フォントをピックアップして紹介する。製品フォントの試用版として提供されているものも多い(使用可能な文字が制限されている)。各フォントの利用条件をご理解の上,作者の厚意に甘えて,使用させていただくのもよいだろう。

モトヤ

 モトヤ社では,販売しているほとんどすべてのフォントについて,“お試しフォント”として試用版を提供している(要利用者登録)。“お試しフォント”では,使用できる漢字が教育漢字に制限される。ただし,以下の“モトヤシーダ 1”“モトヤアポロ 1”“モトヤバーチ 1”に関しては,文字種に制限はない。これらはいずれも個人利用に限って利用できる。

モトヤシーダ

モトヤシーダ 1

 “シーダ”ファミリは,杉(シーダ:ceder)をイメージしたモダンなゴシック体で,1〜8 の 8 種類のウェイトがある。全文字種が無償提供されているのが,もっともウェイトの低い“モトヤシーダ 1”である。

モトヤアポロ

モトヤアポロ 1

 “アポロ”ファミリは,明朝体から“うろこ”の一部を取り去り,すっきりしたイメージに仕上げた書体で,1〜8 の 8 種類のウェイトからなる。全文字種の無償利用が可能なのが,もっともウェイトの低い“モトヤアポロ 1”である。

 イメージとしては欧文書体の Optima に近い。類似書体として,さらにサンセリフ色が強いモリサワ社の“フォーク”,フォントワークス社の“キアロ”がある。

 2007 年,謄写型紙風の“切れ目”が入ったデザインの“ステンシルアポロ”ファミリが追加された。また,2008 年,字画の一部をラウンド処理した“丸アポロ”ファミリが登場した。

モトヤバーチ

モトヤバーチ 1

 “バーチ”ファミリの名は,かば(バーチ:birch)からとられている。ポップ体であるが,丸みの持たせ方が独特であり,終筆部を絞ることで明るく柔らかい一方で鋭い表情も持つ。1,2,3,5,6 と多ウェイトに展開されているのも特徴である。最も低いウェイトの“モトヤバーチ 1”が,全文字種無償利用ができる。

Type Project

 Type Project は雑誌“AXIS”用のフォントを作るために鈴木功氏らによって作られた。そして制作されたものが“AXIS”フォントファミリであり,試用版が無償提供されている(要利用者登録)。

AXIS

AXIS Joyo R

 “AXIS”フォントファミリの標準的なウェイト“AXIS R”は,試用版が提供されている。試用版では,使用できる漢字が常用漢字に制限されているが,実用にはじゅうぶん堪えられるだろう(たとえば,上記の見本画像中の“匂”と“誰”が常用漢字外なので試用版には収録されていない)。

 OpenType フォントなので,Windows 95/98/Me/NT 4.0,Mac OS 9 以前ではアドビシステムズ社の“Adobe Type Manager”が必要である(Light 版は無償で利用可能)。

AXIS Condensed

AXIS Condensed Joyo R

 “AXIS”フォントファミリに追加された字幅の狭い“Condensed”シリーズの標準ウェイト“AXIS Condensed R”も,使用版が提供されている。こちらも,使用できる漢字が常用漢字に制限されているが,実用にはじゅうぶん堪えられるだろう。

AXIS Compressed

AXIS Compressed Joyo R

 “AXIS”フォントファミリに追加された,さらに字幅の狭い“Compressed”シリーズの標準ウェイト“AXIS Compressed R”も,試用版が提供されている。こちらも,使用できる漢字が常用漢字に制限されている。

タイポグラフィクス蓮

 タイポグラフィクス蓮は,かな書体を中心に発売している新進のフォントベンダである。漢字を含む和文書体“和音”の試用版を提供なさっている。無償の試用版は,個人利用および非営利団体での利用について許諾される。

和音

和音 R

 “和音”は,リズム感のある組みあがりが得られるデザイン書体。欧文部分も雰囲気を合わせて丁寧に作られている。L から U の 9 ウェイトから構成されており,試用版が提供されるのが OpenType 版のウェイト“R”である。試用版では,使用できる漢字が常用漢字に制限されている。

 製品は,ATM-CID 版,TrueType 版も用意されている。

ゼアリス

 ゼアリス社では,“大正明朝体”の Mac OS 版 ATM-CID フォントを無償配布している(要利用者登録)。

大正明朝体

大正明朝体

 大正明朝体は,伝統的なスタイルの明朝体。無償配布されているのは ATM-CID 形式。ウェブでの画像化テキストなどにはじゅうぶんな品質であることは言うまでもない。

CHIPHEAD

 CHIPHEAD は,フォントを公開している個人サイトである。以下に紹介する“しねきゃぷしょん”のほかに,2 種類のフォントを公開なさっている。

しねきゃぷしょん

しねきゃぷしょん

 “しねきゃぷしょん”は,洋画の字幕を模したサンセリフ書体。2004 年 2 月現在,JIS 第一水準の漢字を収録している。

青柳衡山

 書家の青柳衡山こうざんは,“書道に興味を持ち,また勉強のために”,氏の揮毫きごうした書字をディジタルフォント化なさっている。

青柳衡山フォント

青柳衡山フォント 2

 “青柳衡山フォント”は,細筆の毛筆書体で,2004 年 8 月現在,“青柳衡山フォント 2”として,JIS 第二水準までの漢字を収録したものを公開されている。

 漢字は端正に,かなは“かな書道”の線で書かれており,墨による線の強弱も特徴的である。

 さらに字種が追加された(約 13,000 字収録)“青柳毛筆フォント”は,5,500 円で利用できる。

青柳衡山フォント T

青柳衡山フォント T

 “青柳衡山フォント T”は,小筆で書いた毛筆書体。2005 年 8 月現在,JIS 第一水準までの漢字が収録されている。

青柳衡山フォント行書

青柳衡山フォント行書

 “青柳衡山フォント行書”は,行書の毛筆書体。2005 年 8 月現在,JIS 第一水準までの漢字が収録されている。

 英数字・かなは“青柳衡山フォント 2”と同一である。

あくび印

 あくびじるしは,フォントを公開なさっている個人サイトである。以下に紹介するほかにも,英数字・かなフォントを公開されている。商用利用に関してはカンパの必要がある。

あくびん

あくびん

 “あくびん”は,いわゆる“まる文字”の手書き文字を元にしたフォントである。細かな調整がされており,同様の“手書き文字フォント”の中でも高い品質を持つ。

 収録されている漢字は,JIS 第一水準,および,人名漢字中 JIS 第二水準に含まれる 40 字。ただし,いくつかの記号が絵文字に置き換わっているので注意されたい。

放射 16 号

 放射 16 号は,フォントを公開なさっている個人サイトである。

T1 号

T1 号

 “T1 号”は,手書き風フォントで,豪快な書きぶりが特徴である。データの質は高く,拡大などにも耐えうる。かながプロポーショナルであることに注意。

 2005 年 8 月現在,収録されている漢字は,JIS 第一水準。商用利用の際には要連絡。

てあとる 16

てあとる 16

 “てあとる 16”は,洋画の字幕を模したサンセリフ書体。しねきゃぷしょんも同様の書体であるが,しねきゃぷしょんが字画の末端を丸く処理しているのに対して,てあとる 16 では直線にカットしている。字面は全体的にこちらのほうが大きい。

 2005 年 8 月現在,収録されている漢字は,常用漢字まで。上掲の見本では,“匂”と“誰”が常用漢字外のため未収録。商用利用は原則不可。

M+ FONTS プロジェクト

 M+ FONTS プロジェクト は,“フリーな日本語フォント”を目指して森下浩司氏らによって作られたプロジェクトチームで,スクリーン用ビットマップフォントの制作を経て,現在アウトラインフォントの制作が進められている。

M+

M+ 1p Regular
M+ 1m Regular

 M+ は,2005 年 12 月現在,ひらがな・カタカナとプロポーショナル欧文・等幅欧文が制作されている。かなと欧文は表情の異なるバリエーションがあり,それぞれ,“M+ 1”“M+ 2”となっている。プロポーショナル欧文が従属するものは Thin,Light,Regular,Medium,Bold,Heavy,Black の 7 つのウェイトから構成される。等幅欧文が従属するものは Thin,Light,Regular,Medium,Bold の 5 ウェイトで構成される。

 上掲の見本は“M+ 1”標準のプロポーショナル欧文(M+ 1p)と等幅欧文(M+ 1m)。プロポーショナル欧文の字幅はかなり広く,ゆったりとした印象を受ける。開口部の広いヒューマニスト系のデザインであるが,巻き込み部分が短くなる文字でも字幅を詰めていない点が Frutiger,Myriad などと異なっている。

 7 ウェイトで構成されているため,さまざまな和文フォントの欧文部分として幅広く利用できるだろう。漢字は現在制作中で,2008 年 6 月現在,教育漢字など 1,200 字の漢字が収録されている。7 ウェイトの守備範囲を活かして,和文フォントのかなの組み替えに利用するのもよいだろう。また,等幅欧文についても,5 ウェイトの利用範囲は広い。

井上デザイン

 井上デザインは,日本語フォントを精力的に制作をされている井上優氏のサイトである。

 “懐風体”“懐流体”“懐遊体”“懐欧体”“懐映体”といったレトロな味わいを持ったもののほか,“壊雲体”“壊石体”“あいでぃーぽっぷまる”といった日本語フォントを公開なさっている。これらには,利用できる文字が制限された“Light 版”があり,利用できるのは,原則として非商用・私的な範囲である。Light 版に収録されている漢字は,教育漢字から約 930 字である。

タイプラボ

 タイプラボは,書体作家,佐藤豊氏が運営するサイト。“アニト”“セプテンバー”などの氏が制作されたフォントの試用版を無償利用できる(要利用者登録)。試用版では,使用できる漢字が教育漢字に制限される。

白舟書体

 白舟書体は,印章に使われる文字をディジタル化して販売している。筆文字,印章用文字を中心にフォントの試用版がダウンロードできる(要利用者登録)。試用版では,使用できる漢字が教育漢字に制限される。また,英数字は収録されていない。そのほか,季節に応じて利用できるフォントを季節限定でダウンロードして利用できる。

 同社では,ユニークな書字フォントも販売されている。

秀山堂

 印章店の秀山堂では,印章用の書体“楽院行書”“楽院篆書”の試用版をダウンロードできる。試用版では,使用できる漢字が教育漢字に制限される。

伊藤印材店

 印章店の伊藤印材店では,印章用の書体 4 書体の試用版が無償提供されている。試用版では,使用できる文字が制限される。

MopStudio

 MopStudioでは,漢字を含む全文字の幅がプロポーショナルであるユニークな手書き風フォントを開発している。“ミウラ Liner”について,収録漢字を小学校 3 年生までのものに制限した“ミウラ Liner-Jr”が無償提供されている。

アトリエケイ

 アトリエケイは,書体作家,鈴木正広氏が運営するサイト。民芸風でくだけた雰囲気の書体を多数制作されている。“お試しフォント”として,“和楽 M”,“雅楽 M”,“かるた REGU”の収録文字限定版(500 字の漢字を選定収録)が提供されている(要利用者登録)。そのほか,森林保護をテーマとした欧文書体を提供なさっている。